熊本地震で被害にあわれた皆様に心よりお見舞い申し上げます.

 

 本サイト「仮設のトリセツ」は,東日本大震災(2011311日)に際して立ち上げたものです.

 

 熊本地震での住戸被害は膨大で,多くの仮設住宅の建設が建設されようとしています.

 中越地震,東日本大震災でも仮設住宅の計画時の僅かな差が,その後のお住まいに大きな影響を与えてきました.仮設住宅建設の初期に共有すべき情報を以下に追記致します.

 

 

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◎「居住の長期化」への配慮を

 東日本大震災から5年が経過していますが,未だ多くの方が仮設住宅にお住まいになっています.そして,熊本地震でも大規模な地盤被害があるなど,避難生活の長期化が懸念されています.

 

 本来,短期的な暫定の住まいである仮設住宅は長期居住を想定したものではありません.仮設住宅の供給に関しては,民間賃貸の活用,将来的な災害公営住宅への転用を見据えるなど,長期的な視野に立った計画が必要であると考えられます.特に地盤被害が著しい地域の仮設住宅に関しては,長期が懸念されるため,元居住集落との関係(位置的,社会的)を配慮する必要があります.(具体的には,生業のある元居住地に通いやすい位置への設置,地縁単位を配慮したグルーピングなど)

 

 また,居住が長期化する中で,家族が増える,荷物が増えるなど,居住空間の逼迫は避けられません.あらかじめ1ランクサイズの大きい住戸タイプの仮設住宅を提供するなどの配慮も考えられます.

 

 

 

◎余裕をもった規模・配置計画を

 住戸まわりの「余裕」が,その後の居住環境の良好化に寄与しています.限られた用地にできるだけたくさんの仮設住宅を建設しなければいけないのは十分に理解できますが,配置上の僅かな配慮がその後の環境を大きく左右しています.

 

  • 隣棟間隔:近隣との関係を調整するためにも隣棟間隔はできるだけ広く取ることが重要です.空間的余裕があれば植栽などでプライバシーを確保することも,ベンチを設置して近隣とのつながりを作ることも,自由に選択・調整できます.
  • 住戸:棟割型の仮設住宅は連続単位を出来るだけ小さくすることが重要です.壁越しの騒音が少しでも低減できます.
  • 駐車場:自家用車が日常の足として定着し,複数の自動車を所有されている世帯が多いと考えられます.駐車車両数の見積もりを慎重に行う必要があります.住宅団地内で駐車場を分散配置すれば,各住戸との距離も近くなり,住戸間の隣棟間隔を広げる事もできます.

 

 

 

◎供給される仮設住宅(3タイプ)と入居者の適正なマッチングを

 熊本地震では「規格住宅型仮設住宅」,「在来木造仮設住宅」,「みなし仮設住宅」の3タイプの仮設住宅の供給が予想されます.

 これらの供給される仮設住宅は,それぞれ一長一短です.

仮設住宅の設置や入居者のマッチングに際しては,それぞれの仮設住宅の特徴をよく考慮した計画が望まれます.

 

 「規格型仮設住宅」は真っ先に完成するので,弱者優先で高齢者などが入居することが予想されますが,「規格型仮設住宅」は高齢者や長期居住には不向きです.このミスマッチが東日本では最後まで災禍となっています.

 

 

☆「規格型仮設住宅」,「みなし仮設住宅」が向いている地域

・地盤被害が少なく,比較的再建が早いことが期待される地域

・都市的な居住スタイルが浸透している地域(都市部,ベッドタウンなど)

・高齢者比率が低い地域

 

 

☆「在来木造仮設住宅」が向いている地域

・地盤被害が甚大で,再建までの長期が懸念される地域

・地域コミュニティがしっかりとした居住スタイルが浸透している地域(農村部など)

・高齢者比率が高い地域

 

在来木造仮設住宅が完成するまでのタイムラグをどう過ごすかがカギです.避難所はつらいので二次避難施設(旅館借り上げ)などの対策が必要でしょう.

 

 

 

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《《参考》》 提供が想定される仮設住宅(3タイプ)

 現在,仮設住宅の設置に関しては,十分な情報はありませんが,熊本県が災害時の仮設住宅の建設に関して,「プレハブ建築協会」,「熊本県優良住宅協会」と防災協定を結んでいることから,仮設住宅の供給は,この両者から行われることになると考えられます.また,東日本大震災で大規模に実施された「みなし仮設住宅」(公団や民間賃貸住宅の仮設住宅としての運用)も行われると考えられます.

 

以上より,熊本地震では次の3タイプの仮設住宅が供給されることが予想されます.

 

(1)規格型仮設住宅

【特徴】

・プレハブ建築を手掛ける全国規模の企業が提供.金属製の柱とパネルで構成される.

【長所】

・供給される速度は最速.迅速に居住空間が確保できる.

【短所】

・金属やプラスチックの素材が多用されており,伝統的な家屋に住み慣れた人や高齢者には馴染みがない.

・長期の居住には向いていない.

 

 

(2)在来木造仮設住宅

【特徴】

・地元の工務店が建設.2012年7月の九州北部水害でも阿蘇市に48戸が建設された.

【長所】

・地元工務店なので気候風土への配慮が細やか.

・簡易な一般住宅なので,住居としての違和感は少ない.

【短所】

・供給される速度は,規格型よりも遅い.

・供給量に限界がある.

 

 

(3)みなし仮設住宅

【特徴】

・一般の賃貸住宅を借り受け,仮設住宅として提供.

【長所】

・一般の家屋なので,性能的な遜色はない.

・空いてさえいれば,入居はすぐ出来る.

【短所】

・都市部に偏在している.(地域によっては少ない)

・バラバラに入居するためサポートが行き渡らない.サポートが必要な独居高齢者などには不向き.

 

 

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岩佐明彦/法政大学